IoTが本格化すると、特許問題が深刻になりかねない?
IoT時代は、特許侵害が可視化されやすくなる
ねこもにの特許取得を通じて、あらためて最近の特許の動向を調べていて気づいたのですが、これから IoT が本格的に立ち上がってくるとすると、ソフトウェア開発業界にとって、特許の問題が従来に較べてはるかに大きくなる懸念があります。
日本の特許制度では、ソフトウェアやアルゴリズム単体の発明では特許にはならないため、長らくソフトウェア開発業界ではほとんど特許の事を気にしていませんでした。しかしIoT時代では状況が一変してきます。
IoTは直訳して「モノのインターネット」ということで、物理世界のデバイス・ハードウェアをICTソフトウェアと連携させることで、新たな価値を生み出そうとするコンセプトですが、そこでは、以下のような状況が生じてきます。
- ソフトとハードを連携させるので、そこに独自の工夫(新規性・進歩性)があれば特許化が可能。
- いわゆるIT系企業だけでなく、製造や物流など他業種からもIoTビジネスへの参入が増える。
- 特に製造業では、ノウハウを特許化するのは当然という文化があるので、IoT関連でも当然特許を取得する。
- IoTはいま注目の分野なので、特許をもつ権利者からも目をつけられやすい。
- ソフトだけならブラックボックスで見えなかった手法が、ハードという「外から見える」要素が加わることで、特許侵害を発見されやすい。
このような状況が揃ってくると、当然予想されるのはIoT関連の特許紛争の増加です。特にシステム開発で特許侵害問題が発生する可能性が高まるでしょう。
例えば、いままでのようにソフト開発会社がユーザ企業に言われるがままに、無自覚にIoTシステムを開発した結果、後でそれが他社の特許侵害となっているというケースなどです。
そうした事態を想定した免責条項を加えた契約をクライアントと結べていれば良いのですが、そうでなければ、システムを設計した開発会社の側にリスクのしわ寄せがくるかもしれません。ユーザ企業にしてみれば『他社の特許を侵害するような設計をするのが悪い』というわけです。
ソフト開発業界の特許への対応状況
ここでは、参考値として、J-PlatPat を使って、いくつかのソフト開発企業の特許状況を調べてみました。これはその企業の特許への取り組み・認識度をある程度反映した数値ではないかと思われるからです。
出願人名 | 特許出願数 | 特許成立数 |
---|---|---|
ウルシステムズ | 9 | 0 |
クラス・メソッド | 0 | 0 |
TIS | 33 | 13 |
富士ソフト | 76 | 46 |
新日鉄住金ソリューションズ | 42 | 71 |
日立ソリューションズ | 887 | 617 |
(2017.10.23現在)
日立ソリューションズさんは、圧倒的に数が多いですね。これは日立製作所さんの文化を受け継いでいる面が強いのでしょう。
どのような対策が考えられるか
ソフト開発における特許紛争を防ぐには、開発プロジェクトのレベルで考えると、以下のような方法が考えられます(あくまでも、これは私見です。他にもあるかもしれません。実際のプロジェクトでは特許法務の専門家と相談することを強くおすすめします):
- 1. 企画段階または設計終了段階で特許調査を行う(パテントクリアランス)
- (a)開発会社側で特許調査を行う(調査費用発生)
- (b)ユーザ企業側で特許調査を行う
- 2. 特許調査で特許侵害を発見した場合:
- (a)設計はそのままで、権利者と開発会社が実施契約を結ぶ(実施料の支払い)。
- (b)設計はそのままで、権利者とユーザ企業が実施契約を結ぶ(実施料の支払い)。
- (c)設計変更をして特許を回避する。設計変更のための追加工数発生。
- →この変更案は自社特許として出願しておく。いわゆる防衛特許です。
- 3. 顧客との契約に、免責条件を盛り込む。
- (a)一切の特許リスクを開発会社は負わない、とする。(現実的には難しいかも・・・)
- (b)なんらかの条件のもと、特許リスクを按分する:
- 例: 設計レビューに顧客も参加し、承認のうえ実装するという前提のもの、特許リスクを顧客側にもシェアしてもらう。
上記の1-(a)のパターンは、B2B的なプロジェクトではよくありそうです。1-(b)は、B2B2Cなどで、開発会社が開発したシステムをOEM的にユーザ企業が顧客に販売するケースなどで発生するかもしれません。
実はどんどん増えているIoT特許
以下の文献などがとても参考になりますが、すでにIoT関連の特許取得はどんどん増えてきています。それらの内容をみると分かりますが、『普通にシステム設計をしていけば、同じような構成になるかもしれない』と思うような特許も多数あります。いわゆる『基本特許』的な色彩が強い特許です。これはある意味で危険な兆候と言えるでしょう。上述のように、安易に設計すると気づかない間に特許侵害をしてしまう可能性が高くなるからです。
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